◆ IP SLAとは
IP SLAは、Cisco IOS機能の1つであり、ネットワークインフラのサービスレベル性能をモニターする方法。
ルータでIP SLA機能を有効化することで、測定用のパケットを任意の宛先へ送出できます。測定用パケット
の受信側は送信側に測定用パケットの種類に応じた情報を返します。これにより、拠点間の片方向の遅延や
ラウンドトリップ遅延、ネットワークの揺らぎの情報をIP SLAを実行した送信側のルータから入手できます。
データトラフィック ・ 音声トラフィックの確認項目 |
測定方法 |
遅延、RTT、パケットロス、ジッタ、QoSの確認 |
プロトコルに応じたパケット送信と受信 |
※ RTT(Round Trip Time): パケットの往復遅延時間。信号は発してから応答が返って来るまでの時間。PINGの最終行で確認可。
◆ IP SLAのアーキテクチャ
測定用パケットを生成して送出するIP SLAが有効化されたルータをIP SLA Senderと呼びます。Senderが
測定用パケットを受信する対象機器(Receiver)は、測定する通信プロトコルにより必要条件が異なります。
IP SLAにより例えばPING応答を確認する場合は通常のIPデバイスで問題ありませんが、UDPジッタなどの
測定パケットの結果をSenderに返す場合、ReceiverはIP SLA Responder機能に対応している必要がある。
※ Cisco IOSルータは「IP SLA Sender」と「IP SLA Responder」の2つの役割を同時に担うことも可能。
SenderはIP SLAを実行できるCisco IOS機器である必要がありますが、ReceiverはCisco IOS機器以外にも
測定アプリケーションに応じて、FTP/HTTP/DNS/DHCPサーバなどサービスを提供するサーバのIPを指定
することも可能。ただし、VoIPアプリケーションの測定にはUDPが用いられてジッタや遅延が測定されるが
UDPパケットは一方通行なので、Senderが送信した一連のパケットの到着状態を把握するためにReceiverが
その結果をSenderに伝える必要があり、Receiverは ip sla responder が設定されたCisco IOS機器である
必要があります。VoIPアプリの測定に限らずUDPアプリの測定にはip sla responderのCisco機器が必須です。
IP SLAではオペレーションの確立時(コントロールフェーズ)、測定時(プロービングフェーズ)の2つの
フェーズあります。コントロールフェーズで、Responderとの間にIP SLA通信の発生を確認して、IP SLA
オペレーションステータスが確立します。後のプロービングフェーズで実際の測定用パケットを発生させて
プロトコルに応じた測定を行います。
※ IP SLAオペレーションごとに、送信元ポート番号、宛先ポートを設定することが可能です。
◆ IP SLAのしきい値によるイベントの発生
Cisco IOSルータでは、IP SLAに関するSNMPトラップを有効化(snmp-server enable traps rtr)できます。
RTTのしきい値、ジッタ平均のしきい値、MOS値を事前に設定することでSNMPトラップを発生させられます。
◆ 参考情報 : MOS値とは
MOSでは、実際に人間が聞いて品質を1〜5の5段階評価する方法。1が最も悪く、5が最も良い評価とします。
本来は人手を利用して算出される値です。udp-jitterコマンドでIP SLAを設定した際にshow ip sla statistics
で確認できる「MOS score」は、Cisco IOSが独自に算出した値です。従って「MOS値と音声品質」の関係を
絶対値とするのではなく、回線速度や回線使用率の異なる環境で試験を実施し基準値を決めることが大切です。
MOS値 |
音声品質 |
コーデック方式との関係 |
5 |
Excellent(非常に良い) |
- |
4 |
Good(良い) |
G.711 コーデックの場合、4.1以上が望ましい |
3 |
Fair(普通) |
G.729 CS-ACELP コーデックの場合、3.92以上が望ましい |
2 |
Poor(悪い) |
- |
1 |
Bad(非常に悪い) |
- |
◆ IP SLAで測定可能なプロトコル一覧
測定利用プロトコル |
測定項目 |
利用方法 |
UDPジッタ |
RTT遅延、片方向遅延、片方向ジッタ、片方向パケロス |
音声トラフィックを転送するバックボーン測定 |
UDPエコー |
RTT遅延 |
UDPトラフィックのレスポンスタイム測定 |
UDPジッタ for VoIP |
RTT遅延、片方向遅延、片方向ジッタ、片方向パケロス
VoIPコーデックエミュレーション、G.711μlaw、G729A
MOS、ICPIFなどの音声品質スコアリング
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VoIPネットワークの測定 |
TCP connect |
コネクションタイム |
サーバやアプリの性能測定 |
DNS |
DNS参照タイム |
DNSの性能測定 |
DHCP |
IPアドレス取得のためのRTT値 |
DHCPサーバのレスポンスタイム |
FTP |
ファイル転送のRTT値 |
FTPサーバの性能測定 |
HTTP |
Webページ取得のRTT値 |
Webサイトの性能測定 |
ICMPエコー |
RTT遅延 |
トラブルシューティングと可用性測定 |
ICMPパスエコー |
全てのパスに対するRTT遅延 |
トラブルシューティング |
ICMPパスジッタ |
全てのパスに対するRTT遅延、ジッタ、パケットロス |
トラブルシューティング |
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